『奇界遺産』写真家・佐藤健寿ロングインタビュー

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LONG INTERVIEW WITH KENJI SATO 最新作『THE ISLAND』のこと、“奇妙な世界”のこと。

世界各地に存在する“奇妙なもの”を撮り続ける写真家・佐藤健寿さん。

奇妙な場所や人物、辺境・秘境の奇祭や奇習、さらに宇宙ロケット基地から巨大廃墟まで、これまで訪れた国は100を超え、佐藤さんが切り取った「不可思議な世界」は、毎回発表されるたびに、
私たちに新たな驚異を与えてくれます。

そんな佐藤さんが、今回、長崎県にある世界遺産「軍艦島」をテーマに写真集を発売。

数多の“ワンダー”を知る佐藤さんが、なぜいま軍艦島をテーマに選んだのか。その理由をうかがいました。

PROFILE

佐藤健寿(さとう・けんじ)

写真家。武蔵野美術大学卒。世界各地の“奇妙なもの"を対象に、博物学的・美学的視点から撮影・執筆。著書に『奇界遺産』『奇界遺産2』(エクスナレッジ)、『世界の廃墟』(飛鳥新社)、『世界不思議地図』『SATELLITE』(共に朝日新聞出版)、『TRANSIT 特別編集号~美しき不思議な世界~』(講談社)、など。テレビ朝日「タモリ倶楽部」、TBS「クレイジージャーニー」ほか出演歴多数。http://kikai.org/

INTERVIEW

元の景観、廃墟としての原形を写真におさめたかった

元の景観、廃墟としての原形を写真におさめたかった

― 今回なぜ軍艦島をテーマに選ばれたのですか?

佐藤:軍艦島はとても有名な場所ですし、以前から作品として形にしたいなとは思っていたんです。軍艦島は2015年に世界遺産に登録されて、今では保存活動が進められていますが、建物の老朽化が進んで崩壊し始めてきているところもある。専門家の方に話を聞くと、限界を迎えている建物もけっこうあって、10年後も今の景観を保てるかどうか難しいとも言われています。

― それで今回?

佐藤:軍艦島の作品はたくさん出ているし、自分としてどう撮るべきか、どういった視点でアプローチしようかというのはずっと考えていました。ただ、まだみんなが知っている軍艦島の景色を残している状態で、また廃墟としての原形を留めつつ写真におさめられるのは、今が最後の瞬間なのではないかと思ったんです。

もうひとつは、今回ドローンで撮影した写真もけっこう使っているんですけど、ドローンの性能も、自分自身の技術も上がって、今までにない軍艦島の写真が取れるかなと思ったこともありましたね。

島の空気感、雰囲気を大切に。写らないものは写らないままで

島の空気感、雰囲気を大切に。写らないものは写らないままで

― 今回の撮影プロセスにおいて、こだわられたところは?

佐藤:軍艦島って、どこを撮っても絵になる島、場所ですから、逆にどこを撮ってもまず「写真」というより「情報」としてのインパクトがすごいんです。

当初はフィルムで撮ろうとか、デジタルで撮ろうとか考えていなくて、いろいろ持っていって撮影したんですけど、一度行ってまず撮影したときにここは解像度云々じゃないな、と思って。

軍艦島の空気感というか、もちろん電気もないですから、光が届かないところはやっぱり暗いんです。最新鋭の超高感度や超解像度のカメラを使えば暗い部分の露出を持ち上げて撮ることはできるけれど、撮れないものは撮れないまま、その「見えなさ」とか空間の「余白」を伝えるほうがこの島にはあっているなと思いました。だから、なるべくフィルムに収められる自然な光の範疇で、写らないものは写らないままでいい、っていうくらいの感じで撮影しました。

海とコンクリート。軍艦島の原風景

海とコンクリート。軍艦島の原風景

― 今回の作品の中で、佐藤さんのお気に入りの写真を3つ選ぶとしたら?

ひとつは表紙の写真ですね。この写真の場所は特に珍しい場所ではなくて、建物の中に入った人はけっこう遭遇する場所。一見単なる廃ビルにも見えるんですけど、その先にすぐ海があって、こういう景色ってじつはありそうでどこにもないし、軍艦島を端的に表現している場所なんじゃないかと思います。

二つめは、どの写真ということでもないんですけど…、窓辺の景色。
軍艦島のひとつの象徴的な景色って、窓から海が見える景色なんです。軍艦島の中を歩いていて、建物の中に入っていくと無意識に見てしまう。

この本の最初の二枚の写真は、海が見える窓と、壁が見える窓なんですが、その二つの光景というのは当時の人にとって原風景的に目に焼きついている景色なのかなと思ったんですよね。建物の中から窓のこちら側を見ると海が広がっていて、反対側を見ると高層の鉄筋コンクリートのビルがぎちぎちに並んでいる。すごい開放感と閉塞感が共存していて、その両義的な雰囲気がとても軍艦島らしいと思うんです。

三つめは、ドローンで撮影した写真。
ヘリコプターに乗って空撮した軍艦島の全景写真は、昔からたくさんあったと思うんですけど、ドローンで撮影した軍艦島の写真って、じつはあまりないんです。

ドローンの凄みと言いますか、地上3、40メートル、鳥が飛んでいる高さくらいから見る軍艦島はとても新鮮でした。

「詩」との出会いがなければ、この本は生まれなかった

「詩」との出会いがなければ、この本は生まれなかった

― 『THE ISLAND』には詩が添えられていますが、この意図は?

佐藤:この詩は、もともと軍艦島の一番大きな建物・65号棟の屋上幼稚園に書かれていた落書きなんです。僕が軍艦島を訪れたときはその壁は既に朽ち果てていてなかったんですけど、仕事で出版社の報道写真のアーカイブを見ていたときにその落書きを見つけて。

読み人知らずの誰かの落書きなんですけど、読んでみたら落書きで片付けるにはもったいないというか、片付けてはいけない妙な何かがあったんですよね。

― その詩が今回の写真集につながった?

その詩を読んでいるうちに、それがすごく自分が軍艦島に降り立ったときの気持ちを代弁しているような感じがして。軍艦島をどう切り取るべきかという視点を導いてくれたと思います。

― 本のタイトルを『THE ISLAND』としたのも、その詩と関係が?

佐藤:タイトルの『THE ISLAND』は、直訳すると「あの島」。
もちろん軍艦島のことを指しているんですけど、タイトルをあえて軍艦島にしなかったのは、その詩がまさにそういうことを言っているんですけど、軍艦島は特殊な場所であるということを言っていると同時に、でもこの島の景色だったり、時間だったりというのは、あらゆる町において起こりうると。軍艦島もあらゆる場所のうちのひとつに過ぎないみたいな感覚をうまく伝えていると思ったんです。

それは自分が軍艦島に降り立ったときの感覚にすごく似ていて。最初に軍艦島を見ると、すごい景色、すごい風景で、すごい廃墟なんですけど、何ともいえない気持ちになるんです。それはなぜかって考えていくと、おそらく町の景色が自分たちが暮らしている町とほとんど変わらないからなんです。

文明は新陳代謝していくもの

文明は新陳代謝していくもの

佐藤:別にセンチメンタルなことを言いたいわけではなく、みんな普通に暮らしている中で、文明だったり町とか社会というのはずっと右肩上がりに成長していくものだという共同幻想が基盤にあると思うんです。この世界は未来永劫続いていくというか。でも、歴史的な文明から今日の東日本大震災の跡地もそうですが、どこかで文明というのは停止して、新陳代謝していくという事実も、実は無意識的に受け入れている。軍艦島であったり、廃墟というのは、この矛盾を突きつけられるからこそ、ドキドキするんだと思うんですよね。

そういう文明の代謝がすごく短いサイクルで、また極端に小さい空間で行われた場所が軍艦島だと思うんです。軍艦島は戦後の高度成長時代に石炭で成長して、人口が一気に増えて、鉄筋コンクリートの集合住宅が乱立する日本の最先端の場所だった。だから日本が島国であることも含めて、軍艦島って戦後の日本をデフォルメしたような、ミニチュア化したような場所だったという風に捉えることもできる。

― 軍艦島は特殊な場所ではない。

自分なりに軍艦島って何だろう、どんな場所なんだろうって考えていった結果見えてきたのは、軍艦島は、遠く離れた離島の奇妙な島というのではなく、じつはこれは自分たちが暮らしている町と何も変わらない場所だということ。

だから、軍艦島の本ではあるんですけど、同時にどこでもない島のひとつの出来事みたいなもの、ひとつの普遍を描いた本にしたいと考えたんです。そういう意味で、タイトルはあえて抽象的な「THE ISLAND(とある島)」としました。

廃墟の王、軍艦島

廃墟の王、軍艦島

― 世界の廃墟をめぐる佐藤さんにして、今回軍艦島を「廃墟の王」と呼んだのは?

佐藤:「廃墟の王」というのは別に僕が考えた言葉ではなく、世界的に廃墟マニアの間で軍艦島を表すときにいわれるひとつの表現だと思います。島で、町で、廃墟で、しかも世界遺産でもある、みたいなところって他にまずないですよね。

世界廃墟ランキングをみんなで投票したら、多分、軍艦島が1位になるんじゃないかなと思います。2位は僅差でプリピャチ(チェルノブイリの隣接都市)か。プリピャチへは2、3回行っていますけど、荒廃したビルやマンションが立ち並んでいて、遊園地なんかもあったりして。物もたくさん残っているんです。東の軍艦島、西のプリピャチ、その2つですね。

でもその2つ、すごく対照的で…

― 「対照的」とは具体的に?

佐藤:丸ごと荒廃した町、という意味で、景色はわりと似ているんです。でも軍艦島ってみんな名前も知っていて、なんとなく景色もわかるんだけど、悲運の島、おどろおどろしい島っていうイメージを持っている人がけっこう多いんじゃないかと思うんです。残留物もたくさんありますから。

すごく悲しい思い出が詰まった島みたいに思われがちなんですけど、じつは全然そんなことはなく、1974年に閉山するまで、ものすごく好景気な島だったんです。閉山後、住民が島を去るときに物があまっているからみんな捨てていった。だから洗濯機とかテレビとか。それが今になって特異な、悲しい光景に見えるのはまた不思議なんですけど。

“奇妙なもの”を通して見えてくるもの

“奇妙なもの”を通して見えてくるもの

― 佐藤さんにとって、奇妙な世界ってどんなものだと思いますか?

佐藤:こういうことをやっていると、すごく奇妙な何かを探していると思われがちで、実際自分もそう思ってやっているところもなくもないんですけど…。でも、同時に思うのは、アフリカで死んだ人を掘り返してそれを踊ってまた納める風習であるとか、ブルガリアにある共産党ホールとか、それこそ軍艦島とか、まさに地続きにあって、同時代に存在していて、自分と無関係ではない。

かの地の人においては、それは何も奇妙なことではなく自然なことであって、それを我々から見ると奇妙に見えるという。

奇妙は相対的なものだと思うんです。だから、自分がやっているのは、いろんなところを巡って奇妙なものに対して「驚きたい」という気持ちもあるけれど、同時にどこかすごく冷めた気持ちで、奇妙なものっていうのは実は存在しないんじゃないかという気持ちもあって、それを確認するために旅を続けているようなところもある。色々旅しながら、変なものを見て、それをなぜ自分は奇妙だと思うのか、なんで惹かれるのかをずっと考えているような気もするんですよ。

― 奇妙は実在しない?

佐藤:自分が撮影しているものは、遠い国にある奇妙なものを撮影することが多いので、そうするとやっぱり、見た人は、それは自分も含めて、これは完全に違う国のまったく違う文化だと、まったく自分たちと無関係の何かだと思ってしまうと思うんですよね。それはもちろん間違いではないかもしれないですけど、でも細かくその中間的なものを見ていくと、無関係ではなく、文化や民族がつながっていることがわかってくる。

例えば、パプアニューギニアのお祭りを見るとします。仮面の文化を見ると、全然違うなと我々との接点を見出せない。でも、トカラ列島(鹿児島県の屋久島と奄美大島の間にある島々)の、「ボゼ」というお祭りを見ると、現地の人が葉でできた腰蓑と大きな鬼の仮面を見につけて登場するんです。そこで日本とパプアニューギニアの中間的な地点が見えてくるというか。

― 旅をすることで見えてくる。

佐藤:日本は島国だからっていうこともあると思うんですけど、外国という観念が強い。でも、ヨーロッパなんかだと、若いころから国境を越えてどこか行くというのは当たり前のことで。

たくさん旅をしていると、国境というのは人類史では割と最近に想定された政治的な、便宜上のものだということがわかってくる。少し前に西アフリカに行ったんですけど、ああいうところに行くと、国境関係なく行き来している民族もいるんですよ。ある一つの民族が、マリにもすんでいるし、ブルキナファソにもすんでいて、適当に行き来してるとか。

国境とはまた違うボーダーが存在していて。実際に歩きながらミクロ的に世界をみていくと、じつは国境というのは雑な分け方というか、便宜的なものというのが観念ではなくて、肌でわかってくる。そういう意味で、自分とある突拍子もないものの距離感みたいなものを考える上で、どこで自分とか自分の属する社会とつながるのか、どうして奇妙に思うのかが、いつも気になるんです。

INFORMATION

THE ISLAND 軍艦島

『THE ISLAND 軍艦島』

著者:佐藤健寿

定価:2,376円(税込)

判型:A4判変型・上製 オールカラー112頁

発行:朝日新聞出版

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